紅葉(もみじば)と並ぶ湯煙 夜の風
高田崇史酔白
上の句には不粋を承知で注釈を付けさせていただきたい。
石段を何段上り下りしたか分からないほど歩いて取材を終え、やっと宿に入って露天風呂に浸かった。
するとこれがまた、ひなびているが実に心地良く、時折、紅葉の葉がハラリ……と湯に落ちてくる。そしてふと見ると、湯船の脇には紅葉をすくい取るための網が用意されていた。
いやいや、いちいちすくい取らなくても良いじゃないか、並んで一緒に入れば――という句なのである。もちろん並んで入ったのは「紅葉という名の女性」ではない。そう思ってしまった方は、自分の心の汚れに気付くように。
そしてまた、この露天風呂の何が素晴らしかったと言って、湯船の側に樽酒が用意されており、飲み放題だったのである(結局はそれか!)。
こうして吉野の夜は、美味しい地酒とともに深く更けてゆくのであった。
吉野編、まだ続く。